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2005.05.23

田崎清忠「私の英語史」

著書にも書かなかったですが、イベントでお話をさせてもらうに当たり、レジメを作っていたときに思い出しました。私は勉強はこのようにするのだと、田崎清忠さんの「私の英語史」で教えられました。中学生か高校生のときに読んだので、私の受験勉強の原点であるように感じます。

田崎清忠さんは、1970年代、万国博覧会で日本に空前の英会話ブームが起こったとき、NHKのTV英会話の講師でした。当時横浜国立大学の教授をされていたと記憶します。「私の英語史」は英会話のテキストに連載されていたのが、のちに単稿本として出版されたものです。

田崎清忠さんは、フルブライト留学生でしたから、エリートです。フルブライトは国費留学制度で、年に3名程度しか選ばれない、超難関の試験です。(今でもあるのでしょうか?) 田崎さんが留学されたのは、1960年代です。1$=360円時代ですから、庶民が海外旅行をするなんて、お金がかかりすぎて、夢のまた夢という時代です。

さて、超エリートの田崎さんですが、実はエリートでもなんでもありませんでした。フルブライト留学をする前は中学か高校の英語の先生でした。狭いアパートに住んでおられたのでしょうか。今はないですが、足踏み式ミシンの踏み台に枕を置いて休んでおられたとか。昼間は働きながら、大変な苦学をされて、留学を勝ち得ました。

実は田崎さんの苦学は、大学受験のときからでした。田崎さんは工業高校の生徒だったのです。工業高校での英語授業といえば、昔でいえばAとBに分けられていた、Aの方です。受験には全く対応していません。それが、昔の東京教育大学(今の筑波大)の英語科に合格されたのです。

どうしても英語をやりたいと思った。そのためには大学へ行かなければならない。しかし、自分には全くその力がない。先生方からも、「無理」の一言。この状況で田崎少年が選んだのは、とにかく勉強することです。英文解釈の問題集を1冊買ってきました。その1ページ目から、とにかく、辞書を引きまくり、模範解答と首っ引きで、訳していきました。わからないことだらけでも、とにかく、1ページ1ページ、毎日毎日続けました。
そしてやっとの思いで最後まで終わったら、田崎少年はまた1ページ目に戻って、同じ英文を再び読みました。2回目になると、1回目の半分くらいの時間で読めるようになっていました。そして再び最後のページにたどりいたら、さらに3回目…今度は辞書がなくてもすらすら読めるくらいになっていたと言います。

私が著書の中でも、昨日の記事でも、「最低3回」と言っているのは、この田崎さんから教えられたからなのです。どんなことでも、あきらめずに根気よく、3回やれば、必ず自分のものになる。それを私は田崎さんから教えられました。

そしてフルブライト留学ですが、田崎さんは最終面接にこぎ着けました。面接は英問英答による口頭試問です。3問尋ねられるとわかっていたのかな。
そのために田崎さんが準備したことは、100問の予想問題を考え、それに対する模範解答を作り、全部を完璧に覚えるということでした。3問のために100問です! そして当日は…3問中2問は予想が的中したそうです。もちろん完璧に答えました。そして3問目は…全く準備していなかった質問でした。どう答えたのか記憶にないそうですが、田崎さんは見事に国費留学生になりました。
私が田崎さんのこの経験から学んだことは、「3問のためには100問準備しなければならない。でも、それだけ準備してもやっぱり準備していないことは当日問われる」ということです。必要最小限ですませようという甘い考えは捨てて、30倍以上準備をしてもそれでも足りないのです。

私は特に大学は英文科を目指していたので、単語には泣かされました。覚えても覚えてもいくらでも知らない単語が出てきました。でも、それは当たり前、テストで問われるのが10問なら、それの10倍どころか、もっと多い50~100倍くらい問題をやっておかなければ対応できないと、私はすでに田崎さんから教えられていたと思います。それだけやっても、やっぱり知らないことは出題されるということも。

でも、ある程度問われる内容を知り、それに合った準備をすれば、試験には通るのだ、とも教えられました。能力の問題ではないです。いかに準備したかです。

そんなことを、イベント後半の最初にお話しました。

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コメント

H.Kさん、コメントありがとうございます。
私は今は、ラジオ付きICレコーダーで、語学番組をタイマー録音して聞いています。内容が豊富で楽しいですが、番組が多すぎて、聞く時間が足りないほどです。一方で、情報が少なかった当時、ラジオやTVの英語の講座を食い入るように聞き入った日をなつかしく思い出します。

投稿: ひろみ | 2011.10.07 23:07

田崎先生の思い出です。
 私が中学校に入学して初めて英語を勉強し始めた頃、田崎先生は、教育テレビの講師をされていました。そして旺文社の「中学時代」の中の英語学習コーナーの講師をされていたのを覚えています。その後、10年くらい経って、NHK第2放送の
土曜日午後7時30分からの番組English Hourに、ゲスト出演されました。私は、カセットテープに録音したのを覚えています。私のつたない英語力でも十分わかる優しい英語を話されていたのを懐かしく思い出します。ひょっとするとその時のカセットが本棚から出てくるかも、探してみます。

投稿: H.K 三重(64才) | 2011.10.07 00:42

尊敬申し上げる田崎先生にコメントをいただき、胸がいっぱいです。先生のHPは教えていただき、登録もさせていただいています。
先生のご著書は、大げさな言い方ではなく、私のバイブルです。ところが私の手元にも、『私の英語史』は残っていません。(内容はかなり詳細に頭の中に残っていますが。先生の留学中のちょっとせつないお気持ちとか、実は印象に残っています。あと、ミシンの踏み台に頭を「安置」してお休みになっていたことも。今の若い方には想像もできないでしょうね)
本当は文庫本になってほしいところですが、インターネット上でも復刻されるのであれば、強く希望します。
また、先生のサイトにもおじゃまさせていただきます。(最近は英語の方はさぼっているので、ちょっと敷居が高いですが…)よろしくお願いします。

投稿: ひろみ | 2010.08.31 17:03

私に関するブログを拝読しました。お察しするところ、藤田様は臨床心理士のお仕事をなさっておいでのようですが、語学学習についての洞察力や高い識見をお持ちの様子に、大いに感銘を受けました。「私の英語史」は私がまだ若い頃の作品で、しかも「NHKジュニア」という主として中学生を読者対象にして書いたものです。当然英語教育も時代とともに深化し、教授法については「現代英語教授法総覧」(大修館書店)をまとめるまでに至っています。そうであっても、「私の英語史」は私にとって限りなく懐かしい存在で、これを取り上げてお話くださった藤田様に、あらためて厚くお礼を申しあげます。なお、この本はすでに絶版になっていて手に入りませんので、「ぜひ欲しい」というお便りをよく受けます。今息子と相談をして、Internet上での復刻版を作れないかどうかを検討しております。
 すでにご存知かも知れませんが、私のwebsiteは http://kiyofan.com で、ここの Weblog に私自身のブログも書いています。おくつろぎの時にお読みいただければ幸いです。
 ご健勝を心より祈念致します。また折に触れて藤田様のブログを読むのを楽しみにしています。

投稿: 田崎 清忠 | 2010.08.31 16:20

Fさん、貴重なコメントありがとうございます。
田崎先生は多くの人に、メンセージを残してくださったことを、改めて実感しています。
そうですが、ご健在で、ブログも書いていらっしゃるんですね。さっそく訪問したいと思います。
教えていただきありがとうございます。

投稿: ひろみ | 2010.08.01 01:25

田崎先生の「私の英語史」は、もう私の手元にはありませんが、中学2年の時に所属していた「読書クラブ」でこの本を読み、読書感想文として手書きでガリ版印刷してもらい、文集にしてもらったことがあります。もう30年も前の昔のことです。田崎先生とは、手紙やメールでやり取りがありますが、今年の11月で80歳だそうです。ご高齢ですが、かくしゃくとしておられ、まだまだ元気でおられます。数年前には二度に亘り、NHKの「ラジオ深夜便」にゲスト出演されました。田崎先生のサイトやブログをご覧下さい。

投稿: F | 2010.07.31 17:48

福太郎さま、コメントありがとうございます。思いがけなかったですが、とてもうれしいです。

田崎先生の流ちょうな英語が、幼少の頃からの海外生活などではなく、「努力」のたまものであることを知った、驚きは大きかったです。私はたぶん小学校の高学年または中学生だったと思います。勉強とは「能力」ではなく、「努力」によって身に付くのだと教えてくれた貴重な一冊でした。

投稿: ひろみ | 2006.03.20 03:21

初めまして、福太郎と申します。
あるブログで、忘れられない先生が話題と
なっており、田崎先生を検索中にこちらの
ブログへとやって参りました。
「私の英語史」をご存じの方がいらっしゃった
ことが嬉しくてコメントさせていただきます。
学生時代の私は英語劣等生でしたが、
映画好きからNHK英会話だけは熱心な学生でした。
学校英語には全く興味もなく、当然ながら
外国人と話すことなど夢のような世界でしたが
番組で交わされる流暢な会話スタイルに
いつの間にかアシスタントのマーシャや先生の
熱狂的な信者となっていました。
そしてテキストに紹介されていたこの本を
すぐにNHKから取り寄せ何度も何度も読み返し
田崎式勉強法などとかってに名付けた
暗記法と外人ナンパ?で何とか受験を
クリアーすることが出来ました。
そして番組に送った本の感想にご返事を先生から
頂き、夢のようで一枚の葉書が少年の宝物となりました。
この本との出会いがなければ、きっとその後
アメリカやオーストラリアへも行くことは
なかったかもしれません。
海外への夢を羽ばたかせてくれた青春時代の貴重な一冊です。

今も英語教育にご尽力されていることを知り
大変嬉しく思いました。

投稿: 福太郎 | 2006.03.19 01:27

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